【目次】
1. 教室の様子
2. 完成したスケッチの紹介(一部)
3. オオカミの頭骨に興味津々な子供たち
4. 「写生」を通して得たもの
5. 集合写真
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■ 1. 教室の様子
7月25日から27日までの3日間、夏休み子ども教室で「博物館で骨を学ぼう!~タヌキの骨とサルの骨~」を開催し、のべ64人の小学生が参加しました。内容はニホンザルとタヌキの頭骨を観察し、スケッチすることで、始めに絵について、またサルとタヌキについて解説しました。
タヌキとサルの漫画と正確なものを描き、絵には自由に描くものと、正確に描くものがあり、今回は正確な絵を描くことを伝え、ホワイトボードに「写生」と書きました。多くの子は「しゃせい」と読め、「写真のようにナマのままに写すように正確に描くこと」だという説明をしました。
サルは霊長類と呼ばれること、それはすぐれた動物という意味だが、ある意味でヒトを上位に置く偏見でもあるので、走ることならウマ、泳ぐことならイルカ、飛ぶことならコウモリというように、さまざまにすぐれた動物がいることを話しました。サルは前肢が「手」であり、ときに2本足で歩くこと、顔とお尻が赤くなること、頭骨は脳の入っている部分が大きいこと、オスはキバが発達していることなどを話しました。
タヌキは漢字で「狸」と書くように人の住む場所にも住む野生動物であること、イヌの仲間であること、歯がするどく尖っていること、見かけの丸顔とくらべて頭骨は細長いことなどを話しました。また、骨は建物でいえば柱のように丈夫で筋肉や内臓を支えるものであることも話しました。
机の上には本物のタヌキとサルと頭骨を置き、子供がさわってじっくり観察できるようにしました。
「大人には動物の頭の骨というと気持ち悪いからってさわれない人がいるんだよ」
というと、
「えー、ぼくへいき!なんで?」
など、かわいい反応がありました。
スケッチを始める前に、スケッチブックの中央に本物よりは大きく描くこと、全体のバランスを考えて描くことをアドバイスしたら、そうしないときよりずっとよくなりました。
スケッチのコツを説明
子供たちが真剣なまなざしで標本をみているようすはとても好ましいものでした。
頭骨標本を真剣に見つめる子供たち
よく見たことで、その複雑さに圧倒されて描くのをためらう子もいました。
約1時間で2つの動物の頭骨を描いてもらい、そのあいだアドバイスしたり、質問を受けたりしました。
観察ポイントをアドバイス
このとき学生3人がアドバイスしてくれました。
アドバイスする学生スタッフ(写真上:高橋さん、写真左:須藤さん、写真右:渡部さん)
■ 2. 完成したスケッチの紹介(一部)
スケッチはいずれも力作でしたが、その中から次の5点を紹介しましょう。
4年生・男子
これはサルのオスの頭骨を横からみて描いたもので、全体のプロポーションも正確だし、オスのキバが大きいこと、歯が焦げ茶色に色づいていることなどよく観察してとらえています。
3年生・女子
これはサルの頭骨を正面から見たものと、横から見たものの両方描いています。自分が観察したことの書き込みもしてあり、散弾の痕もちゃんと描いています。
4年生・女子
これはサルの頭骨で、全体のプロポーションがよく、目や鼻の影を描いて立体感を表現しています。歯も抜けたものを含め正確に描いています。4年生でもこのように正確に描くことができるのかと感心しました。
3年生・女子
これはタヌキの頭骨で、前歯と奥歯の違いを描き分けていますし、目の奥を表現するために影をつけて立体感を出しています。
4年生・男子
これはユニークな着眼点でサルの頭骨を下から見たものです。たいへん正確に描いてあり、歯の数や形をよく見て丁寧に描いています。
6年生・女子
この作品は正確さという点では全体でももっともすぐれたもので、さすがに6年生という感じです。大学生でもこのレベルのスケッチはできない人がいます。全体のバランスや骨の曲がり方、歯の特徴なども実に正確に描いてあります。
このようにできあがった作品を見ると、子供のもつのびやかさ、着眼点のユニークさなどに改めて驚かされます。また大きさや陰影などについてアドバイスするとそれが作品に反映されており、指導のしかたによってぐっと伸びるのだということにも印象づけられました。
■ 3. オオカミの頭骨に興味津々な子供たち
スケッチのかたわら、オオカミの骨を見てもらいました。子供たちはその大きさに驚いていました。
■ 4. 「写生」を通して得たもの
スケッチを進めているときに、思いがけない質問がありました。
「この黒いものはなんですか?」
そのサルの標本を見て思い当たることがありました。この標本は八王子市で農作物に被害を出すサルを有害鳥獣駆除によって駆除されたものをもらいうけて作ったものです。散弾で撃たれて殺されたものです。後頭部にその穴があいている標本もありますが、それは子供にはふさわしくないと思い、観察には使いませんでした。その標本は右目の鼻に近い部分に散弾の鉛弾がめり込んでいたので、私も気づきませんでした。一瞬戸惑い、躊躇しましたが、一考して、ありのままを説明することにしました。
「じつはこのサルは農家の人がせっかく作った作物を食べるので、困った農家の人がハンターに頼んで駆除したものです。駆除するということは殺すということです。タヌキは相模原や町田で交通事故にあい、清掃局に届けられたものをもらってきて標本にしたんです。」
この話をするとき、子供たちが食い入るように聞いているのがわかりました。感想文にこのことを書いた子がおり、強い印象を残したようです。
・まさか町田でタヌキがひかれているとはしりませんでした。今日の夜のゆめにでてきそうです。(3年生・男子)
・タヌキが交通じこで死んだのとサルが鉄ぽうで死んでしまうのがかなしい。(4年生・男子)
・ひょう本は悲さんな死にかたをした動物もいると知り、とても悲しいと思ったけれど、今回そのことを知れてよかったです。(6年生・女子)
・鉄砲、散弾の恐ろしさを感じて、こういうことがないようにしてほしいと感じました。(6年生・男子)
・サルがうたれてショックでした。なので森でしずかーにすごしてほしいと思います。(4年生・男子)
・タヌキは都かいにすまないで、森にすんで交通事こにあわないでほしいです。(4年生・男子)
・サルが野菜を食べてしまうのでたのんでころしてしまうのはかわいそうだなとおもいました。どうぶつ園とかじゃだめなのかな。(5年生・女子)
・心に残ったことは、サルやタヌキたちには人間たちにころされた動物がいるということです。私は、動物を殺してひどいと思いました。人間も動物もみんな仲よくいっしょにくらせばいいのにと思いました。(4年生・女子)
このことは想定していなかったことだし、標本の観察とスケッチには直接かかわりのないことですが、動物の生命のことを考える機会になったという意味では、スケッチ以上に学ぶことがあったかもしれません。巧まずして「いのちの」博物館の活動にふさわしいものになったと思います。
いずれにしても、学校の教室とは違い、本物を手にしたこと、ふだんは聞いたことのない話を聞いたことは子供たちにとっても新鮮な体験だったようです。多くの子供が「勉強になった」「たのしかった」「また来たい」などと書いていました。
・ぼくは絵をかくのがすきで、ほねをさわれて本当にうれしかったです。(3年生・男子)
・はじめてこういう骨のじゅぎょうにさんかして、おもしろいし、学べるということが「こんなに楽しいんだ」とすごく勉強になりました。(3年生・男子)
・おもしろかったり、ふしぎだったり、かんどうしたりして、じぶんがびっくりしました。(3年生・女子)
■ 5. 集合写真
7月25日の参加者たち
7月26日の参加者たち
7月27日の参加者たち
※ 写真公表の了解を得ています。
麻布大学いのちの博物館 公式twitter