【目次】
1. はじめに
2. 解説
3. スケッチのようす
4. スケッチ作品
5. スケッチを終えて
6. まとめ
7. 謝辞
8. スタッフの感想
9. 保護者の感想
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■ 1. はじめに
麻布大学いのちの博物館では「子ども教室」として動物標本のスケッチを行ってきました。同時に頭骨標本の貸し出しもしています。今回は、それを組み合わせたような形で、武蔵野美術大学で小平市の子供を集めて頭骨のスケッチ会をしました。通常は学校に貸し出すのですが、今回は武蔵野美術大学関野吉晴教授のプロジェクト「地球永住計画」の一部「ちきゅうえいじゅうがっこう」を広い意味での「学校」と位置付けて、「出前講座」の試みをしました。
4月4日に24人の子供が集まりました。小学1年生から中学2年生までかなりの年齢幅がありました。保護者が数人、関野先生、リー智子さん(地球永住計画・ちむくい)、豊口信行さん(NPO法人自然環境アカデミー)、郡司芽久さん(国立科学博物館特別研究員)、堀越比菜子さん(武蔵野美術大学学生)、若林英璃奈さん(麻布大学学生)がスタッフとして、高野丈さん(自然観察者)、がオブザーバーとして参加しました。
写真の後にTJとあるのが高野丈さん、TNとあるのが豊口信行さんの撮影によるものです。何もないのは高槻撮影です。
■ 2. 解説
はじめに解説をしました。一つは、3種の動物の特徴で、シカは大きくて草食獣であること、オスには角があること、サルは人に似ていて、果実を主体とした雑食性であること、タヌキも果実を主体とする雑食だが、サルよりは動物を食べることなどを話しました。
それから、頭骨と実際の「顔」がかなり違うことを話しました。そのために、紙粘土模型を使いました。これは実際の頭骨に紙粘土で「肉と毛」を足したものでこれによって、とくにタヌキでは頬の部分に長い毛があるので「丸顔」に見えますが、実は頭骨は意外に細長いということを知ってもらうためです。
サルでは顔面に毛がなくて赤いことなどを話しました。
それから、実際に中に頭骨があることを見せるために、カッターで真ん中を切り、片側を手でもぎ取るように紙粘土を外しました。骨が出てきたとき、歓声が上がりました。
そして草食獣であるシカは植物をすりつぶすために奥歯が平らで上がギザギザになっていること、前歯は下にしかないことなどを話しました。タヌキは動物質の食べ物も食べるため歯が鋭く尖っていて、これで噛まれたら血が出るほどで危険なことを話しました。その点、サルは前歯は鋭いが、奥歯はシカのように平らで上がギザギザだと言う話をしました。
その次に目の話をしました。サルの目が前についているのに対して、シカは横についているので、サルでは左右の目の視野が重複して立体視ができるが、視野が狭いこと、それに対してシカはそれぞれの目が見る範囲が違うので重複部分は狭いが、背後まで広くカバーできることを話しました。そこで両手を開いて人差し指を内向きにし、片目をつぶって顔の前で合わせるように言いました。うまく合わなかった子がいました。そのあとで両目を開けて同じことをしてもらったらうまくできた子が多かったようです。
そこで
「これは両目で見ると距離が正確にわかると言うことです。ではなぜサルは距離が正確に分かり、シカは正確ではなく広い範囲を見るのでしょう」 という問題を出しました。一人目の子は質問を繰り返すような返事でしたが、2人目の子は
「サルは木に登って動くから正確にわからないと木から落ちて困るし、シカは怖い動物がきたらすぐわかるように広く見える」
と大学生でもすぐにはうまく答えられないような正解を言ったので感心しました。
それから骨そのものについて説明しました。
「ナメクジのように骨のない動物もいるけど、こういう動物は小さいものばかりです。カニは体の外側が硬く、中に食べられる筋肉が入っています。つまり骨が外側にあります。実はこういう動物の方がたくさんいます。魚、鳥、哺乳類などは体の中に骨がありますが、これらは地球の生き物のうち、ごく一部にすぎません」
そのあとで、発泡スチロールの棒を2つの椅子にわたし、中央に透明なバケツをぶら下げて中に積み木を一つずつ入れました。10個くらい入れたら大きくU字に曲がりましたが、積み木をあるだけ入れても折れはしませんでした。2本目も折れることはありませんでした。予備実験では折れたのですが、ちょっと準備が甘かったようです。3本目には中に鉄の棒を入れておいたので、同じ重さをおいても少し曲がっただけでした。そのことから、動物の体の中に骨があって外側に筋肉があり、それで強い力が出せるのだという説明をしました。
■ 3. スケッチのようす
それからスケッチをしてもらいました。時間は1時間ほどを取りました。種ごとの比較を目的としたのですが、低学年の子にとっては2つのスケッチをするのはむずかしかったようです。ただ本物の骨を目の当たりにした子供達の真剣な表情が印象的でした。
■ 4. スケッチ作品
概ね学年順に並べました。
■ 5. スケッチを終えて
スケッチが終わってからは感想文を書いてもらいました。
小学2年生
スケッチはぜんぶむずかしかったです。でもじょうずにかけました。さいごのバランスやかたちなどがとれたのでよかったです。父さんにもほめられるといいです。たのしかったです。
小学3年生
いろいろなほねを見てなんでしんだのかと思ったら、ハンターがころしたそうです。サルが生きるためにくだものをとったのに、ころしたのはかわいそうと思いました。ほねはいろんなしくみがあってびっくりしました。タヌキやサルがきけんなことをしりました。はがそんなにかたいのなら、きをつけます。シカが前じゃなく右左うしろまでみるわけは、肉しょくどうぶつにおそわれるかもしれないからだとわかりました。
小学3年生
ぼくははじめてタヌキの本もののほねをみました。タヌキのほねはただはやのうみそをおおっているカルシウムだと思ってたけど、あんなふうにこまかいしくみだとはじめてしりました。こまかいしくみのほねをかくのがむずかしかったけど、いちようかいてみるとおもしろかったです。またほねをかきたいです。
小学3年生
スケッチブックでいろいろなほねの絵をかくのがむずかしかったです。ものを見て、紙を見ないでかいたら、へんになっちゃったので、消そうかなと思ったけど、やっぱり消すのをやめないでおきました。ほねのことがいろいろ知れたのでべんきょうになりました。タヌキやシカのほねをみて、こんなかたちなんだということがわかり、うれしかったです。目がよこにある理由とか、前にある理由がわかってすごいなと思いました。教えてくれてありがとうございました。よく分かりました。
小学4年生
ぼくはおもったことが二つあります。一つ目はシカの下あごの先はふくざつになっているということです。二つ目はサルの歯は色々な形をしているということです。前歯は細長くておく歯は太いことです。僕はタヌキはかかなかったけどじっくり見てみたいです。
小学5年生
シカ、サル、タヌキの特ちょうがわかってよかったです。それとじっさいにほねをスケッチできたのできちょうな体験をしたと思います。シカ、サル、タヌキ以外のほねもスケッチしてみたいです。またこのようなイベントをやってほしいです。ありがとうございました。すご~くたのしかったです。
小学6年生
僕は今日、初めて動物のスケッチをしました。最初はどのようにかけばいいのか分からなかったけど、始めてみると意外とうまくかけたのでうれしかったです。どこに色をぬるかがむずかしかったです。ぼくは図工は好きだけど、絵をかくのはあまり得意ではないので今日のスケッチをいかしたいです。
中学2年生
今日、話を聞いてシカ、サル、タヌキは目のついている場所がちがい、それが自分の身の安全のためだと言うことが分かりました。実際に骨を見てみると、鼻のところには骨がないということや、歯の形もそれぞれ食べる物が違うので尖っていたり平らだったりすることが分かりました。スケッチでは歯が多くて大変だったし、りんかくをかくのが難しかったけど、最後にはきれいにかくことができたのでよかったです。とても楽しかったです。
そのあとで、修了証と動物の小さな紙粘土製の動物の人形のおみやげをわたしました。
■ 6. まとめ
こういうイベントの前には子供のことを想像しながら喜びそうなことをイメージするのですが、私自身がタヌキの頭骨を見たとき、「意外と細い」と感じたので、そのことをどう説明しようかと考えました。はじめはイラストを描いて頭骨と顔の関係を図示しようかと思いましたが、いっそ本物の頭骨に実物大の「外側」を紙粘土で作ろうと思いました。実際に作って見て、動物たちがいかに「上げ底」をしているかが分かりました。また、白い紙粘土の状態と着色した場合で印象が大きく違うこともわかりました。彩色する前のタヌキはクマそっくりに見えました。また、内骨格も口で言うだけでは印象に残らないので、何かモノを作ろうと思いました。これも実際の骨と紙粘土にしようかと思いましたが、力学的なことなのでシンプルな方が良いと思い、発泡スチロール棒にしました。この辺りの工夫はただのスケッチよりは科学の心を育てるのに良かったと思います。そのことは子供の好奇心に満ちた表情を見ればよくわかります。
スケッチをしているときに、サポート役の若林さん、郡司さん、堀越さんが子供達に声をかけてくれたので、子供がリラックスし、スケッチもぐっとよくなりました。
「楽しみながら学ぶ」「個性的な自分だけの作品を作る」ことはうまくいったように思います。
■ 7. 謝辞
武蔵野美術大学の関野吉晴先生はこの企画を地球永住計画の一部と位置付けて、会場を提供いただきました。「ちむくい」のリーさんは広報や受付をしてくださいました。豊口信行さんと高野丈さんは記録撮影をしてくださいました。麻布大学の若林さん、武蔵野美術大学の堀越さん、科博の郡司さんは子供のスケッチにアドバイスをしてくださいました。これらの皆様にお礼申し上げます。
■ 8. スタッフの感想
"発見"に満ちた観察会
郡司芽久(国立科学博物館)
スケッチ会にはスタッフとして参加しました。未就学児から中学生まで、幅広い年齢層の子供が参加していましたが、ついていけなくなってしまう参加者はほとんどおらず、皆じっくりとよく観察し、スケッチが出来ていたのでとても感心しました。
シカの上顎にある小さな犬歯に気がつき、きちんとスケッチに書き込めている子も数名おり、観察眼の鋭さに驚きました。また、初めは数センチの小さなスケッチしか描けなかった子が、時間が立つにつれて、大きく立派なスケッチを描けるようになっていったのが印象的でした。
下顎と上顎を独立にスケッチする子、合わせてスケッチする子、歯に注目してスケッチする子など、人によって注目しているポイントが異なっていたため、スケッチしている子供に「発見した点」を聞くのも楽しかったです。
サル・シカ・タヌキの3種類のうち、最も大きなシカが一番人気になるのではないかと思っていましたが、実際にはサルを描きたがる子供が多く 、「人間(自分)に近いもの」に対する興味が強いのかなと考えさせられました。
様々な工夫と真剣な子供たち
関野吉晴(武蔵野美術大学教授)
国立科学博物館でタンザニア、ラエトリのアファール猿人の骨格から美術家と人類学者が協力して、顔を含めて全身を皮膚で覆い、毛をつけて、表情まで再現するという作業をしました。かなり手間のかかる作業でした。
今回高槻先生が紙粘土を使って、動物たちの顔、頭を紙粘土で再現し、なおかつはぎ取るという工程まで見せてくれました。私まで体を乗り出してしまいました。
スケッチ会なので、食べ物の違いで、顔や、歯、目の位置が違うことくらいだったら私でも解説できるかもしれませんが、周到な仕掛けや準備はとてもできません。そのことに頭が下がる思いでした。大学から骨を持ち出す手続きだけでも大変でしょうが、高槻先生の、子供たちに関心を持って欲しい、本物を観察させたい、気づかせたい、触れて欲しいという思いが伝わってきました。
子供の時から、本物を見て、知ってもらいたい、体験してもらいたい、学んでほしいという高槻先生の熱意に応えるように、子供たちもさまざまな大きさのスケッチブックに色鉛筆を動かしていました。小学校低学年の子たちが飽きることも愚図ることもなく、真剣に骨と向き合っていられたのは、彼らの好奇心もあるでしょうが、好奇心を駆り立てるための工夫が十分な時間をかけて準備されたおかげでしょう。こどもたちは生き物に興味を持つだけでなく、本来持っている観察力にも磨きがかかったでしょう。
私の役割は子供たちのスケッチをコピーすることでしたが、コピーをしながらみると、一枚一枚が個性があり、よく観察しているのが分かりました。骨のどこに着目するかでその子の個性が現れるようでした。
柔らかな心が本物に触れる
高槻成紀(麻布大学いのちの博物館・上席学芸員)
私は東京大学総合研究博物館で働いたことがあります。20年ほど前です。その頃はパソコンの質が向上し、普及した時代で、博物館もその影響を受けてデジタルミュージアム活動を掲げていました。それにより映像化した標本を誰でも見ることができるとか、展示の仕方にも従来になかったことができるようになったということが強調されました。ところが皮肉なことに、博物館の全員が身にしみて感じたことは、デジタルミュージアムの素晴らしさではなく、バーチャルな技術が発達すればするほど、なんの加工もしていない本物の標本こそが最も説得力があるということでした。
もちろん、本物をただ並べておけばよいということではありません。その本物をどういうメッセージを持って展示するかが重要です。同じ標本群でも、分類学的な展示をするか、形態学的な展示をするかで展示の仕方は全く違います。麻布大学に移ってから、がらんどうの展示空間があったので、そこにメッセージを持って標本室から標本を展示しました。それまで標本室で眠っていた標本を大学祭などで時々「ご開帳」し、それなりに人気があったのですが、それしか知らなかった麻布大学の先生たちは私の展示を見て「こんなにおもしろいものになるのか」と刮目していました。そのことが現在の麻布大学いのちの博物館の実現につながったと思っています。博物館でも本物を見せることを基本姿勢にしています。展示には子供向けの解説パネルを添えました。小学中学年ならわかるよう、言葉も文章も熟慮して書きます。そのパネルにはルビをつけ、右上に子供のイラストをつけています。子供達はそれを目ざとく見つけて「あ、僕たちの説明だ」と読んでいます。
博物館で、試みとして「夏休み子供教室」を開いて、スケッチ会をしました。最初は高学年を対象に正確に描くことを学ばせました。それはそれである程度成功しました。しかし私の心を捉えたのは、むしろ「不正確な」絵でした。大人が動物学的な基準で見れば不正確であっても、その子にとって印象的なことが強調された絵が文句なくすばらしいのです。それは単純に「不正確だからよくない」とは言わせない力を持っていました。私はそのことを通じて、子供のみずみずしい心が捉えた「正確さ」は、大人のそれと違ってよいと思いました。ただ、博物館の講座は図工の講座とは違うので、目的は正確に描くこととし、その目的が実現可能な年齢を考えて、対象を低学年にまでは広げませんでした。
その後、小平で子供を集めて糞虫の観察会をして、低学年を含めてスケッチをしてもらいました。するとさらにすばらしい個性的な作品が描かれ、私は完全に子供の子供らしい絵に魅了されました。それで、博物館の特徴は活かしながらも、子供たちに自由に描かせるのが良いと思うようになりました。
その結果、今回は小学生を対象としました。ただし、実際には未就学の子や中学生も参加することになりました。子供たちが本物の骨をじっくり見ることが大切で、その結果生まれた作品は正確さという基準は取り払い、虚心坦懐に眺めればよいと考えました。そのとき、「よく見る」ためには私なりの工夫をしたいと思いました。
それが本物の頭骨に紙粘土をつけるということです。実は私は初めてタヌキの頭骨標本を作った時、「あれ、こんなにスリムなのか」と意外に感じました。それで私たちの目は毛の長さや色によって強く印象付けられるということに印象付けられました。そのことを写真と骨を見比べて説明することはできますが、もっと直接的なことはできないかと思い、頭骨に毛糸を貼り付けることを考えましたが、うまく行きそうもないと思い、紙粘土にしました。写真を見ながらそれらしくなるように粘土をつけていくと、ずいぶん量が要ることがわかりました。それだけ肉や毛が付いているということです。だから、これを剥がせば、そのことがよくわかると思いました。それに、子供は箱の中に入ったものや、袋に入って要るものを見たがるものです。だから紙粘土を剥がして中から本物の骨が見えてくることには好奇心を持つと思いました。
「こうすれば子供はきっと喜ぶ」と想像するのは楽しいことです。現代の子供たちは、紙資料や映像が溢れる世界に生きているだけに、その柔らかな心が本物に接したとき、必ず何かを感じとるはずだと思いました。できあがった子供たちの作品、ひとつひとつを眺めれば、それが果たされたと確信することができました。
子どもの骨スケッチ会を見て
豊口信行(NPO法人自然環境アカデミー)
今回の高槻先生の子ども向けの講座はぼくにとって3度目でした。3度とも、それぞれ違うテーマではあったものの、どれも大人が参加してもかなりおもしろい内容で、親御さんに限らず大人にも聴いてほしいものだと毎回思います。
入念で膨大な準備をされて本番を迎える高槻先生のスタイルはいつも通り。ショーマンシップとサービス精神にあふれた、子どもたちを魅了する仕掛けが散りばめられた講座なのですが、ショーのみに堕することはなく、サービスの追求は必ずしも目的ではなく、伝えたいメッセージが丁寧に込められていました。
普段、わたしたちが頻繁に目にしたり触ったりする機会のある「骨」と言えば、食卓に上がる魚やニワトリぐらいでしょうか。たいていは食べ物の食べられない部分、ぐらいの認識で通り過ぎてしまう類いのものだと思います。でも、じっくり見ると、骨からはいろんなことがわかります。
今回の講座で特に秀逸だったのは、サルとタヌキの本物の頭骨に、紙粘土で肉付けしたものを分解していく過程でした。その大きさや形状、機能などがわかりやすい解説とともにスッと入ってくる仕掛けになっていて、子どもたちはもちろん、ぼくも傍らで興奮しながら見ていました。
スケッチというのもまた、手軽ながら得るものの多い実習です。普通、動物園でもなければ出会えることも稀な動物たちの本物の頭骨を目の前に、手で触りじっくり観察して自分のスケッチブックに描いていく作業は、体験としても非常に貴重であり、生きものを理解する大きな助けになるものです。子どもたちの真剣なまなざしに、ハッとさせられる時間でした。
次の機会があればぜひまた参加したいですし、自分の周りの子どもも大人もたくさん声をかけたい、そんな講座でした。
科学的正確さをスケッチで表現することを引き出す高槻先生
リー智子(地球永住計画・ちむくい)
自分自身が絵を描くのが苦手なこともあって、子供達がとても真剣にスケッチしている姿が羨ましくありました。
一年生の男の子は、骨の色をしっかりつかもうと、色鉛筆を何度も何度も紙の上に走らせていました。彼にはそのように見えたのでしょうね。真剣な眼差しが物語っていました。
歯のつき方はああでもないこうでもないと、何度も消しゴムで消しては描き換えていた子。その消し跡がとてもいい味を出していてうまくかけたな~と思いました。
骨を片手で掴んで裏返しにしたところをスケッチしていた中学生は、最後までずっとその姿勢でした。さぞ手が疲れたことでしょうけれど最後まで頑張ってました。
そこまで集中することができたのは、スケッチする前の高槻先生の解説がおもしろかったからではないでしょうか。どこに注目して観察すればよいのか、どうしてそんな形になっているのかを理解して描くと、より科学的正確さが出ます。単なるオブジェを描き写すというのとは違う、生き生きとしたものになりました。
高槻先生の編み出すものは、とてもオリジナルで、今までに体験したことのない、アートのように思えました。それは、科学者としての長い経験が根底にある、単なるスケッチ会で終わらない、実のつまったもので、企画全体がアートでした。
エンターテイメント性もありよく考えられていました。高槻先生も楽しくてしょうがないという感じで計画されたのだと想像しました。そういう所でも学ぶことの多い会でした。
こう言うと失礼かもしれないですが、遊びのように作られた企画。大人も楽しく子供も学べる。だからこどもたちの笑顔が光っていて、楽しくてしょうがないという感じでした。
得るものも大きい満足度の高いスケッチ会になりました。たくさんの骨を持ってくるという、他では考えられない、高槻先生ならではの企画、私もかかわれて幸運だと思いました。
サル、タヌキ、シカの頭骨比較のスケッチ会の感想
若林英璃奈(麻布大学2年生)
私には、麻布大学いのちの博物館での骨の解説の経験はありましたが、今回のイベントのような子どもたちの骨の学びへのアドバイスの経験はありませんでした。また、私は、絵は専門でないので、おもにしたのはどこから描き進めていけばよいかのアドバイスや、子どもたちが質問することに答えることでした。その中で、とても印象的であったことは、子どもたちが目の前の骨ではなく、その骨の持ち主である動物についての質問をしたことでした。ある子が
「シカは視野は広くても、対象を大まかにしか見ることができないのに、どうして敵と仲間を見分けることができるんですか?」
と質問しました。これに対して私は、
「シカは敵に追いかけられても、お尻の模様などで仲間に続いて逃げることができるんだよ」
と答えました。後で振り返ると、シカはお尻の模様だけで仲間を判断しているわけではないので、私の回答は不十分であったと思います。この子の質問に対してあとで高槻先生が、
「シカはいつも一緒に暮らしていて、見るだけでなく、匂いを含めてお互いを知っていて、あいつとは仲良しだとか、あいつは俺より強いとかわかっているんだよ」
と説明してくれました。
これは、この子が動物の骨から生きている姿を想像し、彼らの生態に興味を持ったという意味ですばらしいことだと感じました。そして、私自身も、骨から動物、動物から生態系へというように、思考の範囲を広げることが出来るということを学べ、これが私にとって大きな収穫となりました。
このイベントは、「子どもたちの学びの場」ではありますが、大学生や大人にとっても、自分にはない視点を得られる貴重な機会だと思います。
■ 9. 保護者の感想
4歳の心に残ったもの
小山内 真弓(保護者)
先日の観察会では、貴重なお話を聞き親の私もとても楽しくワクワクする時間でした。どの子も真剣に話を聞き、スケッチしていたと思います。そんな中、わが子はまだ4歳ということで見学という形で参加させていただきました。昼食後だったためもあり、始めの方の先生のお話はほとんど前の席で寝ていましたが、かえって先生の講義中に騒いで皆さんにご迷惑をかけるよりはよいと安心していました。代わりに私は真剣に聞き、子どもへ伝えました。正直なところ、自分が子どものときそんなに骨について興味があっただろうかと思いました。そして動物を描くよりも骨を描くことは難しいと思いました。
スケッチの時間になると、目を覚まして、隣の席にいた従姉妹(4年生)の描く姿を見て、スケッチを始めました。タヌキを描いていました。「難しかった」と本人は言っていました。確かにその絵からタヌキの骨を描いたとはわかりにくいものでした。しかし、その絵を描いたことで、本人はタヌキの骨を見て、触れたことをしっかり刻んだようです。ふさふさの毛でおおわれたタヌキの骨は小さかったことや、歯がギザギザとあったことなどじっくりと骨を手に持てる時間が十分あったからこそ気付けることがあったと思います。私はそれで充分です。
翌日図書館へタヌキ、シカ、サルの骨または暮らしが書かれた本を探しに行き、司書さんへそれらの本を探していることを本人がしっかり伝え、探そうという好奇心は十分芽生えていました。家に帰って来ても毎日その図鑑で骨だけでなく動物のくらし、特にうんちに興味をもって読んでいます。このように動物の話を聞け、本物に触れ、見れる体験がいつかこの子にとって点と点が線となることを願っています。このような観察会に参加することができたことが、とても有意義な時間となっています。ありがとうございました。またこのような観察会がありましたらぜひ参加したいです。
骨に肉がついていること
小野彩子(保護者)
新3年生、新1年生、4歳の3人の子供と参加しました。まず驚いたのは動物の骨がとても細く、華奢で小さかったことです。特にサルが小さいと感じました。骨に肉が付き、さらに毛がフサフサと生えて動物の実際の大きさであるのに、生きている動物からその骨のサイズを考えた事がなかったので新鮮でした。それから、骨というと博物館にある恐竜の骨を想像してしまい、骨=大きなものというイメージもあったように思います。動物の骨をあまり見たことがないのだと反省しました。
子供達は目の前の物をじっくり観察してあるがままに熱心に描くので、そこにうまく見せようとか、バランスよく描こうとか、そういう要素が少なかったように感じました。その分、作品はストレートに力強いとも思いました。
シカに上の前歯がないのも知りませんでした。先生のお話のひとつひとつがとても楽しかったです。
スケッチ会から家で紙粘土を触るようになりました。記念に頂いたタヌキに、子供達が紙粘土でお風呂を作りました。
生き物の違いを理解、観察してから描くのが、最高の勉強になりました
甲斐美郷(保護者)
先日は貴重な体験をさせていただき、どうもありがとうございました。
前回の恐竜を描こうに続いて、アカデミックで芸術的な体験になりました。恐竜や化石が大好きな息子は、後ろから見ていても楽しそうに生き生きと絵を描いていたので参加させていただけて良かったです。単にスケッチするのではなく、草食、肉食の違いを考えてから観察しながらスケッチすることで、今後の考える作業に使う引き出しが増えたのではないかと思っています。
サプライズお土産の紙粘土の動物も、少しの紙粘土であんなに素敵な作品ができるとは、驚きです。家でシカの頭を作ると張り切っています。
小さな子も多かったので、途中でトイレ休憩があるとありがたかったです。今後の会も楽しみにしています。どうぞよろしくお願い致します。
骨を間近で見る機会をいただき感謝します
半場智惠(保護者)
子供3人、参加させていただきました。3人ともお絵かき大好き、動物大好きなので(これだ!)と思い申し込みました。予想通り子供達はとても満足しておりました。
骨を間近で見る機会はなかなかなく、しかも先生が上に紙粘土をのせてくださったので、実際の状況が分かりやすかったようです。骨と動物を別物ではなく、同じものとして捉えられたらようです。貴重な機会を与えていただき感謝しています。
上の子は2種類かけましたが、下の子は1種類しかかけませんでした。スケッチ時間は当初短かいように感じましたが、子供の集中時間からすれば適切だったかもしれません。たっぷり時間をかけなくてもだいたいの形がかけるようになれれば良いなと思いました。
高槻先生と主催者の皆様に感謝いたします。素敵な授業をありがとうございました。また参加させていただきたいです。
写真は全て公開の了解を得ています。
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