川崎に住む永田櫂斗君(1年生)は遊園地の林でネズミの骨らしいものを見つけて拾って帰ったそうです。それがネズミかどうか確かめたくて、1月20日にお母さんといっしょに麻布大学いのちの博物館を訪問しました。
箱から取り出したのはなにかの頭骨でしたが、ネズミではないようでした。私が見ると、それは小鳥の頭だということがわかりました。ただし状態がよくないので、小鳥ということしかわかりませんでした。スズメの頭骨標本があるので、それと並べて見てもらったら納得したようでした。
スズメの頭骨(左)と魁斗君持参の骨(右)を上からみたところ
スズメの頭骨(左)と櫂斗君持参の骨(右)を下からみたところ
「パッと見てすぐわかるんですね」
とお母さん。続けて
「そういえば、今日、庭にメジロがきていたよね」
「うん」
「そう、メジロくらいの大きさだと思います」
と私。事前にネズミと聞いていたので、ネズミの標本も見てもらいました。
「意外に細いんですね」
「そうです。ネズミでもタヌキでも毛で丸顔に見えるんですが、骨は意外と細長いんです」
櫂斗君が
「こういうことはよくあるんですか」
と聞くので
「めったにはなくて、鳥やネズミなどの死体はすぐにタヌキとかカラスとかに食べられてしまうんだ。だから珍しいと思うよ」
「へえー」
「学校の先生が言ってたけど、鳥が食べて吐き出すんでしょ。これもそうなの?」
「いや、違うな。鳥は飲みこんだら、スナギモといって砂の入った丈夫な袋で砕いてしまうから、柔らかい鳥の頭は飲み込まれたら砕けてしまって、こういう形では出てこない」
「そうか」
「頭がそのまま残っていたということは、誰にも食べられなかったのだと思う」
「なんで食べなかったんだろう」
「夏だったら、死んですぐハエが来て卵を産んで、ウジムシが出てきて腐るから、タヌキでも食べないと思う」
「へえー」
櫂斗君の頭の中で、死んだ小鳥がどうなったかがいろいろ想像されているようでした。
「骨は腐らないんですか」
とお母さん。
「肉は腐るけど、骨はカルシウムの塊みたいなもんですから腐りません」
というような会話をしました。
「生き物が好きなんですか?」
「うん」
「それはいい」と心の中で思いましたが、この少年は音楽の才能があるかもしれないし、ほかの学問に向いているのかもしれない、いや商才があるのかもしれないなどと思って、口には出しませんでした。
ということで、疑問は解決したので、展示室に降りて記念撮影をしました。
櫂斗君と私
これもまた口に出さなかったことですが、子供が小動物の骨を拾ってきたとき、お母さんは「そんな汚いもの捨てて来なさい」ということが多いと思います。
ところが櫂斗君のお母さんはそれを捨てさせなかっただけでなく、「これ何だろう」という櫂斗君の好奇心に応えるために、博物館を訪れられたのです。
このようなお母さんに見守られる子供はどんどん好奇心を広げてゆくことでしょう。
子供の好奇心に応えるのは博物館の大切な役割だと思います。
上席学芸員 高槻成紀
*写真掲載は了解を得ています。
麻布大学いのちの博物館 公式twitter