秦野市にお住いの関野さんから、小3の椿子(はるこ)さんが長野県の山でシカの角を拾って興味をもち、色々質問をしたいという連絡をもらいました。それで8月21日に博物館に来てもらいました。色々興味があるようで、たくさんの質問がありましたが、いくつか紹介します。
Q. 角が抜けるときは歯が抜けるときみたいにだんだんグラグラしてくるのですか、突然ポロっと落ちるのですか?抜けるときに次の角が生えてくるのですか?
A. これは「突然ポロっと」です。歯の抜け替えは歯槽の下部から永久歯が生えてきて乳歯を押し出すようにして抜け変わりますが、シカの角は春になると角の土台である「角座」に離層ができて、突然落ちます。その後、角座から血流が流れ、その外側に袋状の組織ができて、内側に血液とカルシウムが供給されて「袋角」が伸びて行きます。
Q. 山の中で角はじゃまではないのですか?
A. じゃまです。春に古い角が落ちて新しく「袋角」が伸びてきますが、袋角は柔らかく、傷がつくとそのまま残るので、例えば折れてしまうと、オス同士が喧嘩するとき不利になります。だから、袋角の時期のオスは角が木の枝などに引っかからないように、首をのけぞらし、角を背中につけるようにして慎重に歩きます。秋に角が硬くなってからは、邪魔にはなっても傷つくことはないので、そのまま藪の中を進んで行きます。
Q. そもそもシカの角はなんのためにあるのですか?身を守るためですか?
A. シカは大きな動物だし、角は尖っているので、昔はオオカミなどの敵と戦うための武器だと信じられていました。しかし研究が進むと、そうではなく、同じシカのオス同士がメスを巡って競い合うためのものだということがわかりました。立派な角を持っているオスは健康で強いので、メスはそのようなオスを選びます。だからオスとしてはメスを確保するために立派な角を持っている方が有利なのです。実際、交尾期のオスはメスを巡って戦いますが、小さい角を持っているオスは立派な角のオスを見ただけで逃げてしまい、戦いにはなりません。力量が近いオスが出会うと角を付き合わせて押し合いのケンカをします。だから角は武器というより、力量を誇示する広告塔のような働きをすると言えるかもしれません。
Q. シカは自分で角をみがきますか?
A. はい。秋になってカルシウムが固まると、外側の皮が剥げ落ちます。すると中から白い角が現れます。これは石膏のようなものですが、オスジカは泥浴びをし、また角を地面に打ち付けるので角には泥がつきます。そして今度は角を藪や木の幹に打ち付け、こすりつけます。そのことで先端部や角の軸の飛び出した部分は白くなり、凹んだ部分は泥の鉱物質などがついて焦げ茶色になります。だから、角はシカが作り上げた「作品」と言えます。
小学3年生とは思えない質の高い質問で、シカの角の生物学的本質をズバリととらえています。あとでハンズオンの部屋で標本やシカ角の展示で使った模型などを見てもらいました。椿子さんもそうですが、お母様が興味がありそうで、椿子さんの好奇心はそれで深まっているように感じました。
麻布大学いのちの博物館 公式twitter