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いのちの博物館だより

2020.05.29

アズマモグラの骨格標本について  名誉学芸員:高槻成紀

 小金井市に住んでいる知人が2020年5月9日に飼育しているネコが捕まえてきたというアズマモグラの標本を提供してくださいました。体重74 gのメスでした。それを骨格標本にしました。モグラは「トンネルを掘る動物」として知られていますが、そのことは骨格からも読み取ることができます。

 全体で見てわかるのは前肢が大きいのに対して後肢は貧弱です(図1)。その前肢は異様に細長い肩甲骨とつながっています。そして背中から首にかけて非常に発達した筋肉があって肩甲骨から前肢を覆うように付いています。まるでプロレスラーのような「マッチョ」で、この筋肉のパワーで土を掘るわけです。

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【図1:アズマモグラの全身骨格】

 多くの哺乳類の前肢の上腕骨(肘から上)は棒状に細長いものですが、モグラの場合は面的で、しかも複雑なくぼみや突起のある極めて特異な形になっています(図2)。

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【図2:前半身】

 手のひらも特殊です。まず異様というほど大きいこともそうですが、もう一つ親指の外側に「第6の指」があることです。この写真は左手なので親指の外側ということになりますが、両手を前に伸ばした親指の側ということは体との関係で言えば「内側」になります。この骨はブーメランのような弓なりの形をしており、農作業に使う鎌にも似ているので「鎌状骨」と呼ばれます。これは野球のキャッチャーミットのような感じで、指は自分の意志で動かせますが、この骨はそうではありません。この部分が厚い皮膚で覆われてくっついています。そうするとどうなるか。モグラが手のひらを広げて土を掘るとき、土が柔らかければこの鎌状骨により面積が広くなっているので効率的に土を掻き出せます。しかし土が硬い場合は負荷が大きすぎて動かせなくなります。その時は、この鎌状骨の部分は折れ曲がって手のひらの面積が狭くなって少し少なめの土を掘るということになります。実によくできています。
 こう見てくると、モグラが「トンネルを掘る動物」であることが納得できます。

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【図3:アズマモグラの左手の骨】

 最後にもう一つ触れておきたいのは鋭い歯です(図4)。モグラの主な食べ物はミミズで、トンネルを掘っていればミミズのトンネルとぶつかってモグラのトンネルにミミズが顔を出すこともあります。それをこの鋭い歯で捉えて食べるのです。鋭い山脈のような歯ですからミミズの体もスパリと切れるはずです。

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【図4:アズマモグラの頭骨】





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