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いのちの博物館だより

2020.08.04

『八ヶ岳のフクロウの巣材から検出されたネズミの骨』いのちの博物館名誉学芸員 高槻成紀

 恒例のワークショップ「フクロウの巣からネズミの骨を取り出す」を2019年12月14日に実施し、分析の結果を3月30日の「麻布大学いのちの博物館だより」に紹介しました。分析試料は八ヶ岳南麓の7つの巣から材料が得られました。
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【図1 八ヶ岳南麓の空中写真をフクロウ巣箱の位置】

 このうち5つは報告し、残りの2つは別の機会を予定していましたが、コロナ禍で中止することになったので、私が分析しました。その結果を報告します。
 例年通り、ネズミの下顎骨が主体ですが、そのほかヒミズ、モグラなどの骨も出てきました。珍しいことにモグラの腕全体も2例出てきました。

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【図2 フクロウの巣から検出された骨など。スケールは10 mm】

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【図3 アズマモグラの腕(前肢)】

 ネズミは森林に住むアケネズミ系と牧場などの開けた場所に住むハタネズミ系が出てきます。ネズミ全体に対するハタネズミ率を計算しました。ハタネズミが多い巣は開けた場所が近いだろうと思い、空中写真の巣の位置から直径500 mの円を描いてみました。そうするとO7のように話ばかりの巣もあれば、O2やT6のように畑が多い場所などさまざまでした。

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【図4 7カ所の巣から直径500 mの円を描いた空中写真】

 そこで、これをもとに林、牧場、畑など主な植生を林が多いものから少ないものへと並べ、ハタネズミ率と比較してみました。ハタネズミ率は2019年の結果と、これまで数年分の通算値を示しました。表の黄色はハタネズミ率が高い場合、緑は低い場合を示しています。
 結果を見るときれいな結果とは言えませんでした。林が多いO7やK3でもハタネズミ率は高くなりました。ただしこれらは通算では小さいので、2019年の数字が偶然だったと考えられます。中間のN1、O13などは特に大きくも小さくもなく問題はないようです。O22でハタネズミ率が高かった(ただし通算では特に高くはない)にはいいのですが、O15とT6で低いのは予想外です。

表1 巣箱周辺の群落とハタネズミ率。大きい値を黄色、小さい値を緑で示した。

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 しかし同じ「開けた場所」と言ってもN1やO13、O2では牧場ですが、O15とT6は畑です。牧場はほとんど人がおらず、ハタネズミがいますからフクロウは巣から多少遠くても飛んでいくと思われます。しかし畑には人がいることが多く、また道路もあります。そういう場所ではフクロウはあえて畑には出ないで、林の中でアカネズミを捕獲するのではないかと思われます。
 フクロウは機械ではありませんから、状況に応じて飛翔距離も変えるというのはありそうなことです。
 この調査は八ヶ岳自然クラブのご協力いただきました。またワークショップに参加された皆様にもお礼申し上げます。

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