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いのちの博物館だより

2024.12.26

ワークショップ「フクロウの巣からネズミの骨を取り出す」を開催しました

※この記事は、名誉学芸員高槻先生にご寄稿いただきました。
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「フクロウの巣からネズミの骨を取り出す」
本館名誉学芸員 高槻成紀
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<目次>

<はじめに>

2024年12月14日に「フクロウの巣からネズミの骨を取り出す」というイベントを行いました。このイベントはしばらく休んでいたので参加者がどのくらい集まるか気になりましたが、11月25日に定員に達したということでした。

当日はご高齢の方から高校生、小学生そして幼稚園児まで広い年齢層の21人が集まりました。

<フクロウの解説>

初めにフクロウという鳥の特徴を学んでもらいました。フクロウはネズミを食べることに特化した鳥で、そのために耳で「立体視」すること、音もなく飛べることなどを説明しました。

高槻先生ワークショップ「フクロウの巣からネズミの骨を取り出す」

立体視の説明のために、両手を広げて人差し指を立てて、目の前まで移動させ、指先がつくかどうかを試してもらいました。初めに片目を瞑っておこなうと半分くらいの人が失敗でしたが、両目でおこなうと全員がうまくいきました。フクロウはこれを耳でおこなっているということです。

また音もなく飛ぶために、翼の前にある毛に特殊な構造があって空気の流れを滑らかにして消音しており、これは新幹線のパンタグラフの減音に応用されているという説明をしました。

高槻先生ワークショップ「フクロウの巣からネズミの骨を取り出す」

それからサンプルを提供してもらっている八ヶ岳での調査結果を説明しました。八ヶ岳では林の中に牧場がありますが、地元のグループが十数個の巣箱をかけていて、牧場に近いところでは巣の中に残されたネズミの内訳はハタネズミが多く、遠いところではアカネズミが多いことがわかっています。

高槻先生ワークショップ「フクロウの巣からネズミの骨を取り出す」

牧場と林でネズミをトラップ(罠)で捕まえると、確かに牧場でハタネズミが、林でアカネズミが多く獲れることがわかりました。

そのトラップは縦横5 cm、長さ20 cmほどのアルミの四角柱で、説明用に側面を切り抜いて内側が見えるようにしました。

高槻先生ワークショップ「フクロウの巣からネズミの骨を取り出す」高槻先生ワークショップ「フクロウの巣からネズミの骨を取り出す」

そして棒の先にネズミの模型をつけたものを中に入れて、餌台を踏むとドアが閉まるのをみてもらいました。「あとで自分でやってもいいよ」と言ったら「やったぁ!」という男の子がいました。

高槻先生ワークショップ「フクロウの巣からネズミの骨を取り出す」

アカネズミは林にすみ、ハタネズミは牧場のような草原的な場所に住むこと、その食べ物、消化器官が違うことなども解説しました。

それからフクロウが食物ピラミッドの頂点にいる頂点捕食者で、フクロウがいることはその環境が良いことを示しているという話もしました。

<作業の説明>

それから実際の骨取り出しの作業内容を説明しました。

高槻先生ワークショップ「フクロウの巣からネズミの骨を取り出す」

初めにネズミの骨について、形の特徴から、例えば「歌うおじさん」などのニックネームをつけていることの説明をしました。「歌うおじさん」とは前肢の尺骨のことで、骨の端に円形の窪みがあり、それが人が口を開けているように見えるからです。

高槻先生ワークショップ「フクロウの巣からネズミの骨を取り出す」

それからネズミの下顎の骨の説明をし、アカネズミとハタネズミの下顎の違いを説明しました。

<骨の取り出し作業>

それから、八ヶ岳にかけられた巣箱から骨を含む巣材を4つを取り上げ、4班を作って1班に1つを受け持ってもらいました。班ごとに別の巣箱の巣材を担当してもらい、各人が少しずつ容器に取り出して、その中にある骨をピンセットで取り出してもらいました。

「あ、あった、あった!」と嬉しそうな声が聞こえました。寛骨や脛骨などは折れていることが多いため、説明通りでないものもあり、それは質問してもらって説明しました。中には鳥の脚がそのまま出てきたり、モグラの上腕骨が出てきたりして歓声が上がっていました。

高槻先生ワークショップ「フクロウの巣からネズミの骨を取り出す」

ハタネズミの下顎骨から段ボール状の歯を取り出したり、アカネズミの下顎骨から切歯を抜き出したら、「オーッ!」と声が上がりました。

高槻先生ワークショップ「フクロウの巣からネズミの骨を取り出す」

「もしこれが人の顎くらいの大きさだったら、歯の長さは10センチ以上もあるわけです」と言ったら笑いが起きていました。

「ネズミの仲間は齧歯類と言って、齧(かじ)る歯を持つ仲間ということで、硬いものを食べるために先がすり減るので、この長い歯が伸び続けるわけです」

「ヘエー」

この取り出し作業を1時間あまりしてもらい、感想文を書いてもらいました。それから一人一人に感謝状を渡して、イベントを締めくくりました。

高槻先生ワークショップ「フクロウの巣からネズミの骨を取り出す」

<参加者の感想>

一部ですが、参加者の感想を紹介しましょう。

(10歳未満)
ほねとるのがたのしかった。

(10代)
骨の形にあだなみたいなものがあってわかりやすかったです。一番きにいったのは「歌うおじさん」です。骨をさがすのはたいへんだったけれど、とても楽しかったです。またやってみたいです。

(10代)
・ほねをみつけだすのが楽しかったです。
・歯がかんたんにぬけてびっくりしました。
・大腿骨がいっぱいでてきておどろいた。ママが「足はおいしかったんだね」と言っていたのでそうなのかな~とかんがえていました。
・容器に木くずを入れてすぐにほねがみえたのでワクワクしました。
・大きなはねもあったのでそれがなんのやつか知りたいです。
今日はありがとうございました。楽しかったです。

(40代)
博物館ワークショップに参加するのは初めての経験でしたが、先生の説明もわかりやすく、フクロウの巣の中身を調べることでフクロウの食性についてだけでなく、フクロウが住む周りの環境のことも知れるのが大変面白かったです。フクロウがネズミを食べるのは知識として知っていましたが、モグラやドバトも食べていること、また吐き出したペレットがぎゅうぎゅうに圧縮されていることを実際に触れ、体験できたのはとても興味深いことでした。また博物館のワークショップが開催されたらまたぜひ参加したいと思います。今回は貴重な体験をさせていただきありがとうございました。

(40代)
巣の中から出てきた少しの骨で、ふくろうの生活が分かる楽しい授業でした。分からないことや不思議なことも、質問すると分かりやすくお答えいただきありがとうございます。わたしの家の脇には川が流れていて、ネズミ、イタチ、ネコ、タヌキ、他にも多くの種類の動物がいます。巣箱を作ってみようかなと思いました。

(40代)
・想像を大きく裏切る(?)おもしろいワークショップでとても楽しかったです。じっくり宝骨探しできる時間があり、思いの外、骨がいっぱい容易に見つけられてこんな経験初めてでした。
・生き物のリアルな食生活をかい間見ることができワクワクしました。
・先生の下顎骨と歯の解説や、大きな骨から推測することなどのお話が分かりやすく、興味深かったです。
・資料も分かりやすく、作業もしやすいように、用具etcも用意されていて、スタッフさん達に感謝です。子供へのサポートもありがとうございました。
・麻布大学というところにも初めて来ました。キャンパス広くきれいで、話した学生さん達も好感がもてる方々でした。レベルの高い研究をこのように一般人に公開してくださり、ありがたいです。「学び」をみんなへ!!・・・というSDGs的だと思います。
・子供にも大きな刺激になったと思います。人生が変わるかもです(^^)
ありがとうございました。

(60代)
今回はお世話になりました。
感想ひと言「楽しかった。面白かったー!!」です。
フクロウはなかなか近寄り難い存在のイメージが強くて、実際、自分の目で自然界にいるフクロウを目撃したことはありません。
生きる為に一生懸命えものをつかまえて、上手に食べてヒナも養い、食べたえものの骨を残して我々人間にいろいろな事を教えてくれているんだなぁと感心いたしました。
このようなワークショップ、次回も参加したいと思いますし、他の方々にも伝えていけたらなぁと思います。

<私の感想>

私自身の感想も書いておきます。

・子供の参加
参加者は2時間ほどのあいだ、小さい子も含めて説明を聞き、休憩もしないで集中して作業をしていました。私が思うに、観察会などに行くと経験や知識が優先されるので、どうしても「大人が知っていて、子供は知らない」ことになりがちですが、この骨の取り出し作業では子供だからできないということがないどころか、むしろ子供の方がよく見つけるようで、「僕だってできる」「私の方がよく見つけた」ということがあるのだと思います。

・ホンモノに触れること
学校の理科は暗記をさせることが多いので、暗記が苦手な子は理科嫌いになりがちです。私の考えでは、教科書に紹介された知識を覚えることは理科、つまり自然を理解することと同じではありません。自然のことを知りたいという好奇心は本能のようなもので、誰にでもあるものです。子供は本物の動植物や石ころや雲などを好きです。その好奇心を育てるには、紙に書かれた知識ではなく、ホンモノに接するのが一番です。それに、現在ではバーチャルな体験が飛躍的に増えています。それはホンモノから遠ざかることで、そのことが子供の心や頭にどういう影響を与えるか、大変心配です。だから、私には、こういう活動をするのは、学校の理科でできない自然の魅力を伝えるのに、また疑似体験ではないホンモノ体験の力を伝えるのに役立つという確信があります。参加した子供たちは、その私の確信が本物であることを身をもって示してくれたと思います。
フクロウが食べたネズミの骨を自分で取り出したというワクワク感が、柔らかな子供の心に何かを残してくれたらいいなと思いました。

・市民科学と大学博物館
私がこういうイベントが大切だと思っているもう1つの理由は市民科学が重要だと思っているからです。八ヶ岳のフクロウの食べ物の調査を大学院生や研究者がおこなえば効率的であり、確実性もあります。遺伝学や生理学へ難しいだけでなく、特殊な機器や手法も使うので市民は参加できません。しかし、こういう調査はそういう特殊な人でなくてもでき、多くの人が調べることの楽しみを共有できます。科学の素晴らしさは、国籍や宗教や、いうまでもなく人種や性別を超えて人類が共有できるものであるところにあります。私の感想は子供が中心になりましたが、保護者の方も、高齢者の方も、みなさん楽しそうに作業をしていました。

「これみてよ」と鳥の足を取り出して見せてくれた年配の男性の表情は実に楽しげでした。また連れてきた小学生がすぐにネズミの下顎を見つけたのをみた保護者の方が「すごいじゃない」と言っていましたが、親子が一緒にこういう時間を共有することも得難い体験だと思います。

高槻先生ワークショップ「フクロウの巣からネズミの骨を取り出す」

その意味で、こういう作業を研究者が独占することなく、市民と共有する機会を作るべきだと思います。それは広く言えば、大学が社会的存在であるということにつながります。現在の大学は地域とのつながりが重要だとしています。それは具体的には講演会という形で大学の先生が専門の話をするという形がとられますが、それは市民にとっては「聴く側」にまわることで、共有するという実感は持ちにくいことが多くなりがちです。その点、大学博物館は今回の作業のように、楽しく学ぶ機会を提供することで、地域の人々とのつながり作りを実現できるという重要な役割を果たすことができる存在です。大学はそのことを積極的に進めるべきだと思います。

このイベントは麻布大学いのちの博物館で久しぶりに実施しました。博物館は標本が展示・解説してあると思われがちで、もちろんそれは重要ですが、それは博物館のハード面で、車輪の両輪に例えれば、こうしたイベントはいわばソフト面で、博物館のもう1つの車輪といえます。麻布大学いのちの博物館では学生が「ミュゼット」というサークルで解説活動をしていますが、これもソフト面の活動です。今回のイベントでも、ミュゼットの木村充さんが参加して、必要なことによく配慮し、テキパキと、また子供にも優しく接してくれました。これからもこうしたソフト面が充実して来館者にいのちの大切さを伝えてもらいたいと思いました。


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